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アナログ人間の独り言~阪神タイガース・映画・サブカルチャー・旅行等々
映画「戦争と人間」の第一部は、1970年の夏に公開されました。
65年に刊行が開始された原作本は、既に前年までには第3部最終巻(12巻)が発売されており、当初日活が予定していた全4部構成の映画製作完了には、十分完結が間に合う見込みでした。
ただ映画業界の斜陽が非常に深刻化して来たのもこの時期であり、特に経営母体が脆弱でスター俳優の流出が続いた大映と、同じくスター俳優の流出、ヒット作に恵まれなかった日活が連合を組み、配給網を「ダイニチ映配」に統合。
邦画5大メジャーの2社がそれぞれの劇場でお互いの作品を上映するという異例の事態の中、この超大作は公開されたのです(公開館は洋画系)。

昭和3年1月。
陸軍士官学校の大講堂で居並ぶ士官候補生を前に演説をぶつ教官。
「満蒙は我が日本帝国の生命線である!」
巨大な中国・満州地方の地図。
時は弱肉強食の帝国主義が吹き荒れる時代。力がものを言う軍人の時代。そして世界恐慌を迎えつつある暗黒の時代であり、日本人の誰もが日清・日露両戦役で「権益」を得たと信じる大陸への進出を夢見た時代でもあった。

中国長春郊外で寒村を回診中だった在満邦人の不破医師は、突然匪賊の襲撃に出くわす。
満州は今、勢力拡大を図る日本軍に対抗する抗日ゲリラと、それに呼応するが如く裕福な農家を襲う匪賊で無法地帯と化していた。
略奪と破壊で大混乱の村の中、不破は身を隠して難を逃れる。
満州は暴力と阿片が支配する地と成り果てていたのだ。

その満州で日本の新興財閥「伍代産業」の現地法人「伍代公司」幹部・鴫田が暗躍する。
暴力と殺人、阿片で満州を征服しようというのだ。
「伍代公司」社長・伍代喬介は闇の仕事は鴫田に任せ、匪賊や現地人と和する仕事は同じく幹部の高畠に任せようとする。
その喬介は、軍事力による満州支配を考えていた。

日本・東京。
標拓郎は弟・耕平とと二人暮らしで左翼活動を続ける、伍代産業勤務の労働者であった。
その拓郎が「315事件」で警察に逮捕される。
治安維持法が改悪され、あらゆる反国家的な言動が弾圧の対象となりつつあった。最早国民に言論の自由は無かったのだ。

東京の伍代家では長男・英介の渡米送別会が行われていた。
子供のいない伍代産業幹部技師の矢次は、部下である拓郎の弟・耕平を保護者としてパーティーへ連れて行く。
矢次は伍代家長女の由紀子と不倫関係にあった。しかし由紀子は彼女の挑発に乗らない矢次の優柔不断さに業を煮やしていた。
伍代家のサロンでは英介と喬介、そして伍代家の当主・由介が満州における日本の軍事行動の可能性について意見を戦わせている。
「軍人さんの出番なんだよ」在留邦人の保護と権益の確保に外交の限界を感じている喬介は、参謀本部・佐川少佐の前できっぱりと断言し英介も同調する。
その中で未成年ながら反戦的な意見を臆せず述べる次男・俊介。喬介はその態度を頼もしく感じる反面、将来に対する不安を感じる。
耕平はこのパーティーで、俊介と伍代家次女・順子と運命的な出会いをする。耕平は俊介がブルジョアらしからぬ平和主義的な理想の持ち主である事に驚き、順子の無邪気で純粋な心に惹かれた。
佐川少佐と共に会に同席した柘植中尉もまた、由紀子との劇的な出会いでその男勝りの気性に惹かれる。由紀子は満州における日本進出の本質を見抜いていたのだ。その由紀子も実直な柘植に好意を持つ。
そのサロンに風雲急を告げる伝令が飛び込んで来る。
中国山東省済南で蒋介石率いる国民軍と日本軍の衝突が決定的になったというのだ。

済南事件は国民軍の一部が現地在住の日本人を襲撃したもので、そこには鴫田の姿があった。鴫田は中国人をそそのかし、日本人を襲わせていたのだ。
しかし日本軍との正面衝突を嫌った蒋介石は済南を迂回、戦火は辛うじて拡大せずに済んだ。

「伍代公司」の高畠は喬介の密命を受け、部下の白永祥と共に匪賊の大頭目と命懸けの交渉を行っていた。
略奪で人民の恨みを買うのではなく、物流に通行税を掛けて穏やかに利益を得ようと言うのだ。そしてそれは農民達の安寧に繋がる。
中国に野心を抱く関東軍(日本陸軍中国関東州守備隊)と伍代財閥の方針に高畠は賛同しなかったが、現地の人々と共に生きる平和的な交渉は願うところであった。
高畠の交渉は成功し、伍代公司は匪賊から通行手形の割符を得る。
しかし万が一、裏切りが発生した時には恐るべき報復が待っていた…。

喬介は女スパイで愛人の鴻珊子との密談中、奉天総領事館員篠崎の訪問を受ける。
篠崎は行方不明の高畠の妻の依頼で、その上司である喬介に会いに来たのだ。
関東軍と気脈を通じ大規模侵攻を画策する喬介は、その為に必要な奉勅命令(天皇の命令)を得る算段を練っていた。
篠崎は喬介の計画を批判するが喬介の眼中には外交官の存在は全く無く、「あんたらに任せても満州の夜明けは来ない」と逆に反論する。
篠崎は「あなた達のやり方では、満州の夜明けは血で染まりはしませんかね?」と皮肉る。

素子が宿に戻ると、そこに高畠がいた。
任務を終えて生還して来たのだ。
素子は今後、二度と高畠と離れない事を誓う。

東京では耕平が矢次の下を離れて一人住まいを始め、拘置所の拓郎に時折面会を求める生活を送っていた。
その耕平は俊介と共にプロレタリア画家・灰山の部屋を訪れる。俊介は灰山の作品に感銘を受け、貧乏作家・陣内の悪態に傷つきながらも、父・由介に灰山の作品を買って欲しいと頼み込む。
しかし由介は俊介の考えを「偏った思想」と断じ、貧しさを嘆くのではなく、貧しさを無くさなければならないのだと俊介に説く。その為には「日本に当然の権利がある」満州を開発しなければならないのだと…。

5月、奉勅命令が出ないまま関東軍は旅順から奉天へ移動する。
河本大佐による独断専行であり、その動きを察知した喬介は「伍代公司」の荷馬車の全てを奉天へ送り込む。
その関東軍が待ち構える奉天近郊へ、満州軍閥の張作霖を乗せた列車が近づいていた。

奉天では不破医師が友人の奉天医大医師・服部と共に医学生・趙延年の屋敷を訪問していた。
彼らは延年の妹・瑞芳を交えて麻雀を楽しむ。しかし二人は趙家訪問の直前、闇夜の中で見知らぬ日本人の男・鴫田から「城内から出るな」と脅迫まがいの警告を受けていた。
…日本の特務機関が何かやる気なのだ。
趙兄妹は満州での日本の暗躍を冷静な目で観察していた。延年は瑞芳が日本へ留学すれば良いと二人に言う。日本へ留学した中国人は間違いなく反日派となると言うのだ。
服部は瑞芳に好意を感じ、日本人相手の婚約者候補に冗談半分で名乗りを上げる。
ちょうどそこへ兄妹の父・趙大福がやって来て、この夜中に張作霖を駅まで迎えに行くと言う。

疾走する列車が爆破され、張作霖が殺害された。
関東軍の仕業である。
爆破を中国軍の犯行とした関東軍は奉天総領事館に街の防衛を進言する。
しかし総領事に代わって対応した篠崎は、やんわりと拒否するのであった。

麻雀中に事件を知った服部達は事の真相をあれこれ推測する。
日本陸軍のテロ行為を批判する趙延年に対し、服部は「日本ならもっと堂々とやる」と反論し、延年を呆れさせる。

国際社会の注目する中、非難は日本に集中しつつあり、喬介は河本大佐の計画の甘さを怒りながら、次の手を考える。
12月、張作霖の後を継いだ息子の学良が、蒋介石と手を組んだ…。

1年後、昭和5年正月。
長春の不破の家で、服部は新年を不破と二人で祝っていた。
そこへ怪我をした男が乱入して来る。彼の名は除在林。日本人相手に凶悪な犯罪を繰り返し、ここまで流れて来た朝鮮人であった。
除在林は二人に治療を要求し、食事と金も無心する。
脱走囚である彼を追って来た警官隊が屋内の彼に気付き、除在林は「俺の名を覚えておいてくれ」と二人に言い残し、そのまま逃亡する。そしてその際、警官の一人を刺殺してしまうのだった。
殺された大塩巡査の息子・雷太は、その葬儀の場で朝鮮人に対する復讐を誓う。
雷太の幼馴染・梅谷邦は、両親に雷太の保護を求める。邦の父は「伍代公司」の社員だった。

天真爛漫な少女・邦は、高畠の部下・白の小さな友人でもあった。
白は邦に例え話で日本の中国侵略と満州進出の構図を聞かせる。
幼い邦は日本の中国に対する理不尽な行動にただただ憤慨する。
中国人である白は、伍代公司に潜入した共産党員であった。
その頃、社長室では喬介の前で関東軍参謀・石原莞爾中佐が高畠を匪賊に協力した罪で追及していた。
…石原中佐は高畠が開拓したルートを、関東軍の諜報活動に利用出来ないかと考えていたのだ。
喬介は協力に対する対価を引き出す駆け引きを忘れなかった。

5月、間島共産党暴動が荒れ狂う満州で、高畠が徐在林に拉致される。
中国共産党員であった白に救出された高畠であったが、この事は徐在林と白の間に亀裂を生む。
高畠の妻・素子は夫の生還を喜ぶが、その幸せも束の間であった。

東京。
未曾有の大不況に人々は悲鳴を上げていた。
「満州だよ!満州さえ手に入れば何とかなるんだよ!軍人にやらせればいいんだよ!」
屋台のおでん屋で飲んだくれる男の愚痴は、一般庶民誰もが思う本音であった。
その片隅で食事をしている耕平と俊介。
耕平の兄・拓郎は釈放され間もなく徴兵で満州へ出征するが、俊介の兄・英介は伍代の力で徴兵を免除されていた。
耕平は憤慨し、俊介は心を痛める。

仙台の第三師団へ入営した拓郎は、ある夜同僚が寝床の中で泣いているのに気付く。
聞けば彼の妹が身売りに出されたのだという。
不況と貧困は、容赦なく日本の農村を直撃していた。
そしてその鬱積が爆発するまで、そう時間は掛からなかった。

東京の伍代産業で大規模なストライキが発生する。
工場に突入した警官隊が労働者達を弾圧して行く。
それを目の当たりにした俊介は、工場の門扉にしがみ付いて絶叫する。

伍代家では矢次が由介に、従業員の賃上げを嘆願していた。
このままでは生産性も落ち、どんどん効率が悪くなる。極端な円安で輸出は絶好調なのだから、多少無理しても賃金を上げた方が得策であると説得する。
しかし由介にも英介にも取り付く島は全く無く、由介は争議を拒否する。
帰宅した俊介が、由介に泣きながら工場で見て来た事を訴える。
その様子に由紀子は、俊介の中に伍代家の微かな希望を見る。
自室に籠る俊介を、母代わりに彼と順子を育てた女中頭のお滝は、しかし俊介に「お金持ちと貧乏人は決して仲良くなれません」と無情に諭すのであった。

満州に喬介と英介がやって来た。
ホテルに滞在中、服部・不破・延年と会食している瑞芳に目を付けた英介に、鴻珊子は彼女が大地主・趙大福の娘であると教える。
服部は英介の視線に気付いて「失礼な奴だ」と不快感を露にする。そして趙兄弟に彼らが日本の死の商人・伍代財閥の一員であると教える。
延年は「美しい女性を眺める事は必ずしも失礼な事では無い」と理解を示し、英介は強引に彼らと同席する。

夜道を独り、帰路を歩く喬介。
人気の無い街路で、喬介にピッタリとロシア人の男が二人寄り添って来る。
彼らは喬介に危害を加えようとするが、いつの間にか馬車で駆けつけて来た鴫田の拳銃と、喬介の仕込み杖に倒される。
著名な在満邦人の殺害こそ、関東軍出動の大義名分に十分であった。

10月、台湾で少数部族による反日暴動「霧社事件」が発生。
日本軍による鎮圧は夥しい犠牲者を生む。
柘植中尉はその調査の任に着くため、伍代家に挨拶に来る。
そして再び由紀子に会い、お互いの気持ちを確認するのであった。

翌、昭和6年4月。
高畠が開発した伍代公司のルートを進む輸送隊が、突然匪賊の襲撃を受ける。
輸送隊の中に関東軍特務機関の諜報員が紛れていたのだ。
直ちに報復手段として伊通の伍代公司営業所兼高畠の自宅が焼き討ちされ、素子が誘拐される。
異常に気付いた喬介は鴫田に調査を命ずるが、その時血相を変えた高畠が社長室へ飛び込んで来る。
彼は匪賊の襲撃時、丁度不在で無事だったのだ。
高畠は喬介に金と銃を貸して欲しいと頼むが、もう無駄だろうと喬介は言う。
それでも身代金を手にした高畠は、白と共に匪賊の大頭目と会う。
大頭目によると、素子は共産匪が連れて行ったと言う。その共産匪のアジトに向かうと、そこに居たのは徐在林であった。
徐在林は、目を離した隙に素子は自殺してしまい、死体は山の麓に埋めたと言う。
逆上した高畠は「お前たちに出来る事は女を犯し殺す事だけか?」と徐に詰め寄る。
しかし逆に徐は「殺されたくなかったら大人しく日本にいろ」と凄む。彼の家族は「万歳事件(三・一独立運動)」で日本官憲に虐殺されたのだった。
朝鮮独立の凱歌を高らかに歌う徐在林達を後に、高畠は何とか素子の死体を探そうとするが、白の説得で諦めて帰路に着く。

東京では一時帰宅を許された拓郎が、耕平と最後の休暇を楽しんでいた。
拓郎は耕平に「何も信用するな。女でも思想でも、本当に理解出来るまでは何もするな。自分の上に立つ人間がいたら、そいつがどんな人間なのかよく見るんだ」と教える。左翼思想に翻弄され、その組織にまで裏切られた拓郎の苦言であった。
夜中、寝付かれずに寝床で相撲を始める二人。
耕平は泣きながら、兄に死んだら嫌だと言う。
「俊介君の兄さんは兵隊に取られないんだ!」
「伍代の御曹司だからな」
満州事変まであと僅かであった。

6月、蒙古に近い大興安嶺地区で調査活動を行っていた日本軍の中村大尉と井杉曹長が、張学良配下の中国官憲に殺害され物品の一切を略奪されるという事件が発生する。
関東軍の調査で事件の詳細が報道されるや日本国内世論は沸騰し、日中関係は一触即発の状態となる。

柘植中尉が帰国して来た。
しかし霧社事件報告書における日本の植民地政策批判が災いして、金沢へ左遷となったという。
無関心を装う由紀子に、執事兼秘書の武居が柘植を追わないのかと尋ね、彼女の平手打ちを食らう。

関東軍本部。
満州浪人や国士達に囲まれ、対中関係の弱腰を責められている石原中佐。追い詰められた彼は、いざとなれば2日で奉天を撃滅すると断言する。

喬介の満州での根城「田伏旅館」。
その風呂で鴻珊子との混浴を楽しむ喬介。二人は関東軍の動向を語り合っていたが、その様子を大塩雷太が覗いていた。
彼は旅館に風呂焚きとして雇われていたのだ。

9月18日、柳條溝(柳条湖)で関東軍が南満州鉄道を爆破する。
これを中国側の犯行として関東軍は出動の口実とする。
しかし一向に反撃してこない中国軍に、業を煮やした板垣大佐は一方的な砲撃を命令する。

深夜、事態に気付いた喬介は、そのナイフ使いに目を付けた雷太に伍代公司へ行って人を集めさせる。そして、もし逃亡する者がいたら、殺しても構わないと言う…。

殺気立った関東軍本部に森島総領事代理と篠崎書記官が出向く。
血気逸る参謀達を相手に、篠崎は「命令無く外国に戦闘を開始した者は軍法により死刑になる」と言い放つ。
怒り狂った将校の一人が軍刀を抜いて突き付ける。「帰れ!」
怯えた総領事代理が篠崎を連れ出そうとするが、「今、日本の上を決定的瞬間が過ろうとしている。ここで逃げ出せば外交官はその存在意義を失う」と篠崎は森島代理に言う。
しかし板垣大佐を抑える事は最早不可能で、二人は参謀達の罵声を浴びながら本部から立ち去るのであった。

長春南嶺砲兵営攻略戦。
標拓郎はそこに居た。
敵陣からの機銃掃射で、部隊は身動きが取れない。
拓郎の援護で戦友の一人が手榴弾による敵陣地の破壊に成功するが、拓郎自身は敵弾を頭に被弾し死亡する。

雨の東京。
新聞配達を終えた耕平が下宿に戻って来ると、部屋では俊介が待っていた。
黙って紙片を差し出す俊介。拓郎の戦死通知であった。
「馬鹿だな…死んじゃった」静かに泣く耕平。

奉天のホテルは日本軍によって安全が守られていた。
そのバーで関東軍の動向について静かに語らい合っている服部・延年・瑞芳。
彼らのテーブルに一人の満州浪人が寄って来て因縁をつけて来る。
「酌をしろ」瑞芳に強要する大陸浪人。
軍の威力を背景に、日本人はどこまでも現地人に対して傲慢であった。
そこへ英介が現れ、「伍代」の名を語って浪人を追い払う。
彼らに同席した英介だが、程なく離席した瑞芳の後を追って散会となる。

瑞芳の部屋を訪れる英介。
彼は部屋の鍵を閉めるや瑞芳の服を引き裂き、ベッドへ押し倒す。
英介に凌辱された瑞芳は、「ここで私を殺さなければ、人を雇ってあなたを殺す」と復讐を誓う。
しかし英介は嘲り笑うだけであった。
「ふざけるな。ここはもう満州じゃない。日本だ」
部屋を出ようとする英介は、服部医師と鉢合わせする。彼は胸騒ぎを覚えてホテルへ戻って来たのだ。
「出て行け、伍代の御曹司!貴様の様な奴は日本人の恥だ!」
服部は怒鳴る事しか出来なかった。
瑞芳を慰める服部だったが、日本人の彼が何を言っても無駄であった。

英介の不始末を知った喬介は、社長室で英介を殴りつける。
「貴様の様な馬鹿者が後継者では、伍代もこれまでだ!」
憤慨する英介だが、趙大福がその気になればお前なんか簡単に消されてしまうと、喬介は怒鳴りつける。
自分の身は自分で守ると拳銃をちらつかせる英介。
喬介は部屋にいた雷太に指示し、投げナイフで英介を威嚇させる。雷太は喬介の用心棒となっていたのだ。
「この小僧に一晩で三人の男が殺された」
喬介は鴫田に、英介をハルピンに連れて行ってそこで鍛え上げてくれと頼む。
「英介さんに出来ますかね」ほくそ笑む鴫田。
彼らの会話を聞いていた高畠は、「また人殺しの相談ですか」と冷ややかに言う。
「お前、何で伍代辞めないんだよ?」
鴫田の問いに高畠は、自分の部下の妻を殺した人間の末路を見届けたいからだと答えて立ち去る。
鴫田は喬介に、いいんですか?と尋ねるが、喬介は放っておけと言う。
「あんな個人的な感情は、この先戦争に圧し潰されてしまう」

満州事変勃発後、世界は大きく変動し、日本の右傾化は一気に進む。
そして上海事変を契機に、天皇は陸軍の出兵を許可する。

昭和7年、2月。
上海への出征が決った金沢の柘植中尉の下へ由紀子が訪れる。
「私、自分の事は自分で始末出来ましてよ」
柘植はやっと由紀子の気持ちを受け入れたのであった。

由介は帰って来た由紀子に、柘植との関係を問い質す。
結婚するつもりなのか?遊びなのか?
「私は夢中になりたいものが欲しいだけ」
由紀子は父に本心を語った。

戦火は遂に上海にまで及んだ。
戦場に突入して行く柘植中尉。
激動の時代は、まだ始まったばかりであった。

監督・山本薩夫
原作・五味川純平
脚本・山田信夫
企画・大塚和
    武田靖
    宮古とく子
撮影・姫田真佐久
照明・岩木保夫
録音・古山常夫
美術・横尾嘉良
    深民浩
編集・丹治陸夫
音楽・佐藤勝
助監督・加藤彰
     小泉義史
製作担当者・柴垣達郎
        福田慶治
色彩計画・内田周作
       佐藤重明
史料考証・沢地久枝
言語指導・盧星晃
軍事指導・木島一郎
応援監督・磯見忠彦
特殊撮影・日活特殊技術部
現像・東洋現像所
協力・北海道中標津町

長大な超大作ですが、非常に密度の濃い内容です。
公開当時は膨大な製作費にも関わらず大ヒットを記録し、経営危機にあった日活の業績向上に大きく貢献しました。
内容は原作にほぼ忠実で、何よりも登場人物が非常に上手く再現されています。
原作においては登場人物や団体は全て架空の物であり、史実の人物や企業などと直接関わる事はありません。しかし実在の人名も企業名も実名で登場しており、伍代財閥は三菱・三井ら巨大財閥の後に続く新興財閥であり、生き残る為に大陸進出を目論んだという設定になっています(伍代のモデルになった日産財閥も、原作・映画共に名前は登場します)。
映画ではこの点にかなり苦労したらしく、実在の人物が創作されたキャラクターに絡むシーンが幾つも存在します。
ただ、大きな歴史のうねりの中で、各人物がダイナミックに生き生きと動きドラマを組み上げて行く様こそ原作の魅力であり、この点は実に見事に映画化されています。

監督は巨匠・山本薩夫
「赤いデミル」と評される作品全体を貫く左翼思想と娯楽性の絶妙なバランスはこの作品でも健在で、嫌味にならない程度の反戦描写や重厚な人間ドラマ、そして迫力ある軍の戦闘シーン等、映画としての見所満載といった豪華な作品に仕上げています。

脚本は山田信夫。
長年、日活の専属ライターでしたがこの年にフリーとなり、山本監督とは以後東宝で「華麗なる一族」「不毛地帯」といった山崎豊子作品でコンビを組みます。

音楽は佐藤勝。
日本を代表する映画音楽作曲家であり、黒澤映画、8・15シリーズ、東宝特撮シリーズ等、実に多彩な作品群の中において、本作のテーマ曲は氏の代表作と言っても過言ではありません。
3部作全てのタイトルバックに延々と流れるメインテーマは、多分映画を知らない人も聞いた事はあるのではないでしょうか?

キャストも豪華この上なく、しかもどの役もバッチリはまっています。
悠然たる財閥の総帥に滝沢修。
中国大陸に野心を燃やし、ギラギラとした悪の魅力に満ちた喬介に芦田伸介。
小心者ながら支配欲旺盛な長男・英介に高橋悦史。
高貴でありながら自由奔放な長女・由紀子に浅丘ルリ子。
実直で堅物な青年士官に高橋英樹。
底知れぬ凶悪さで悪の権化・鴫田を演じる三國連太郎。
愛らしい中国娘・瑞芳に栗原小巻。
その瑞芳を陰から見守る青年医師・服部に加藤剛。
悩めるブルジョア少年・俊介に中村勘九郎。第二部からは青年となり、北大路欣也が演じます。
兄を失い天涯孤独の少年となる耕平には吉田次昭。第二部からは左翼青年をやらせたら右に出る者はいない山本圭(山本監督の甥)が演じます。
外交官の意地を通そうとする篠崎書記官に石原裕次郎。
そして時代の奔流に逆らえない人間・矢次に二谷英明。

中国ロケなど叶う筈もないこの時代、荒漠たる中国大陸の再現は全て北海道で撮影されたそうです。
一方で奉天の巨大な街並みは日活撮影所内のオープンセットに組んだと言うから驚きです。あの雑然とした雰囲気等は、香港かどこかでロケしたのだと最初に観た時は思ったくらいなので。
日本人が中国人に扮したキャラクターのセリフも随分難があったらしく、かなりいい加減な中国語を喋っているそうです。
特に第二部に登場する大月ウルフ演じるロシア人スパイのロシア語は、当時のソ連人から「あれは無い」とはっきり言われたそうな。

特撮(ミニチュア)を担当したのは日活の特殊技術部。
東宝の特撮に比べると遥かに規模が小さくなりますが、過去においては素晴らしい作品を手掛けています。
中でも怪獣ブームの最中に製作された「大巨獣ガッパ」は、今でもゴジラ・ガメラ・ギララと共に4Gの一角を占める人気怪獣映画となっています(スタッフは株式会社日本特撮映画からの出向が多かった様です)。
本作でミニチュア撮影を担当したのは、ウルトラシリーズで特殊美術を担当した成田亨氏。
列車の爆発シーンや関東軍の砲撃シーン等、第二部に跨ってかなり精密で規模の大きなミニチュアワークが観れます。

大ヒットした第一部を受け、日活はすかさず第二部の製作に取り掛かります。
公開は翌71年6月。
日活の体力が持つか、映画の完結が先か、事態は新たな局面を迎える事になります。

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【2017/08/15 22:31】 | 映画
【タグ】 五味川純平  山本薩夫  戦争と人間  日活  
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