アナログ人間の独り言~阪神タイガース・映画・サブカルチャー・旅行等々
先日、BS-TBSでジェームズ・キャメロン監督「タイタニック」をノーカット日本語吹替え(ソフト版)で放送しており、久し振りに観る事が出来ました。

あらためて観ると本当に良く出来た映画だと思います。
300億円近い制作費をかけた超大作であり、キャメロン監督は「タイタニック船上でロミオとジュリエットをやる」と20世紀フォックスの企画プレゼンでぶち上げたそうですが、当のフォックス側はあまりにも高額な制作費に尻込みしてしまい、結局パラマウントとの合作となります。
キャメロン監督、もともと「殺人魚フライングキラー」「ターミネーター」といったB級怪獣映画専門監督といったイメージが強かったのですが(あのロジャー・コーマン門下生)、作劇術・構成力は確かなものがあり、メジャー・スタジオで働くようになっても「エイリアン2」「アビス」「ターミネーター2」とその趣味的要素は変わらないものの確実に面白いものを作る人でした。
SFアクション作品を作り続けていた中で突然作った「タイタニック」、ほぼ実物大で再現された船体のセットを実際に水に沈めていく迫力は相当なもので、今観ると稚拙に見えるCGもなかなか効果的に使用されています。
また、部分的に使用されたミニチュアも良く出来ており、さすが特撮スタッフ出身監督だけの事はあります。
3時間以上にも及ぶ上映時間を長く感じさせないストーリーは、映像の迫力以上にこの人の才能が光っていると言えるでしょう。
「ベンハー」と並ぶアカデミー最多受賞という実績がその全てを物語っていると言えるこの作品、受賞はプロダクション部門に限られており、何故か脚本は「最低の脚本から最高の傑作が生まれた」と皮肉られる等、ノミネートすらされませんでした(何処が悪いのか、私には今更ながら判りません)。

過去、随分いろんなタイタニック映画を観て来ましたが、1980年に公開されたイギリス映画「レイズ・ザ・タイタニック」はいろんな意味で異色作と言える物でした。
原作はクライブ・カッスラーの冒険小説ダーク・ピットシリーズ「タイタニックを引き揚げろ!」。

冷戦時代、アメリカ軍が推進していたミサイル防衛システム「シシリア計画」。
強力なビーム兵器によるそのシステムに不可欠なレアメタル「ビザニウム」はソ連領内でのみ産出されるものであり、過去に1度だけ採掘され軍事目的でアメリカへ密輸されようとした事があった。
それに使われたのが1912年4月10日、イギリスのサウサンプトンを出港したタイタニックだったのだ。
アメリカ軍がタイタニックのサルベージを計画する中、ソ連の妨害工作が始まる。

額面通りに受け取るとこの映画、007ばりのスケールの大きいアクション映画になりそうなのですが、原作がどうしようもなく能天気な上に映画はタイタニック引き揚げに至る諜報戦等がほぼ省略されており、見所はサルベージシーンのみとなっています。
ただ、その引き揚げシーンは実に見事なもので、これだけでこの映画の存在価値はあると言えるでしょう。

インターネットで検索してみると、この映画の特殊効果について「素晴らしい」と「実にお粗末」の両極端に分かれており、作品未見の方は大層戸惑う事と思います。
レイズ・ザ・タイタニック」の特殊撮影は当然ながら100%ミニチュア特撮で、CGは勿論「タイタニック」の様な実物大の浮上用セット等は作られていません(浮上後のセットは作られていましたが)。
従って、本物と見間違うような大災害映像を見飽きた人にとって、模型然としたこの作品の特撮はチャチに見えるのでしょう。
そう、この映画の特撮はミニチュア丸出しであり、それこそがこの作品の醍醐味と言えるのです。
製作したのはイギリス興行界の超大物、ルー・グレイド卿率いるI・T・Cグループ。あの「サンダーバード」を世に送り出したジェリー・アンダーソンをバックアップした、TVを中心とした総合メディア会社です。
TV界では成功を収めたグレイド卿も映画興行では失敗が続き(この作品も大失敗となります)、やがて失脚する原因にもなるのですが、「レイズ・ザ・タイタニック」はまさにグレイド卿の趣味が炸裂した作品だったと言えるかも知れません。
潜水艇のサルベージシーンは実際に水中撮影で処理され、気泡やマリンスノー、湧き上がる泥等、実にリアルかつ繊細で水を使用しない潜水艦映画の特殊効果とは一線を画するものがあります。
そしてタイタニック浮上の迫力あるシーンは、これぞ水上ミニチュア特撮の極致と言っても良いでしょう。
飛び散る飛沫、海面の泡立ち加減(恐らく洗剤か何かを使っている)、船体から滴る雫、どれもこれも計算され尽くした理想的な状態であり、ジョン・バリーの音楽の素晴らしさもあって圧倒されてしまいます。
これこそイギリス特撮拘りの一品、盆栽や枯山水にも通じる日本の箱庭文化的様式美に、まさに共鳴する部分大ではありませんか?

撮影はイギリスのパインウッド・スタジオの特撮プールではなく、マルタ島にある地中海映画スタジオ(MFS)の特撮用タンクで行われました。
マルタ共和国は映画産業が非常に盛んで、ハリウッドの巨額予算超大作の撮影を多数請け負っており、特に「ザ・プロデューサーズ・クリエイティブ・パートナーシップ(PCP)」が所有するMFSの世界最大の巨大タンクは、各国の映画会社が頻繁に使用しているのです。

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MFSが誇る二つの巨大タンク(特撮用プール)。
両方とも海岸に面し、エッジ部分(プールの水平線)からは常に水が平均して溢れ出す設計にしている為、自然の空をホリゾントとして利用出来るだけではなく、本物の海面とプールの水面が一体化し、プールの水平線だけではなく本物の水平線まで利用出来るという世界でも類を見ない特徴を持っています。

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カメラから水平線の方を覗いた映像。
タンクの水面と実際の海面が自然に融合しています。
良く見ると境界線が判りますが、非常にスケールの大きい映像が撮影出来る施設だというのが判ります。

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浅い方のタンクは1964年にスタジオの開設と共に建設され、奥行き91メートル、幅122メートル、最深部で1.8メートルの規模を持ちます。
「オルカ」「リヴァイアサン」「カットスロート・アイランド」といった作品の撮影に使用され、NHKドラマ「坂の上の雲」の撮影が行われたのもこのタンクです。

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円形のタンクはディープタンクと呼ばれ、直径108メートル×49メートルの楕円形で、深さは何と11メートルもあります。
このタンクは1979年に「レイズ・ザ・タイタニック」の撮影の為に建設され、タイタニックが海面に浮上するシーンの他に水中シーンもこの底で撮影されました。

特撮スタッフには実に多くの方が参加していて、まずイギリスの特撮監督であるジョン・リチャードソンがクレジットされています(モデル及びメカニカル効果監修)。
「ジャガーノート」「遠すぎた橋」「007シリーズ」といったあまり特撮を前面に出さない地味な作品を多く手掛け、同じイギリスのデレク・メディングスとは対極を行く様なキャリアを感じさせる方なのですが、デジタル全盛の現在においても「ハリー・ポッターシリーズ」等で活躍されている希少なスタッフでもあります。
ただ、この作品ではマルタの撮影にはあまり関わっていない様子(一応、現地スタッフには参加しているようですが)。
マルタのモデル・ユニット特撮監督としてクレジットされているのはリクー・ブロウニング。
もともとは「大アマゾンの半魚人」にスーツアクターとして出演、その後は水中撮影のエキスパートとして活躍されたようで、特撮監督と言うより水中撮影監督と言った方が良いかも知れません。
他にアレックス・ウエルドン(「史上最大の作戦」「スター・トレック」)といった大ベテランや、ハイスピード撮影監督のブルース・ヒル、作画効果のウォーリー・ヴィーヴァーズ(「2001年宇宙の旅」「スーパーマン」)といった人達が脇を固めています。

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撮影後もスタジオ内に保管されていたタイタニックの撮影用模型。
全長16メートル以上、重量は10トンというスケールだそうです。
さすがにこの規模のミニチュアなら上記のようなタンクも必要な訳で、あの迫力ある映像も納得出来ます。

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保管と言っても保存状態は決して良くなく、野晒し状態。
長年の風雨に耐えられずに現在ではご覧の有様です。
復元してちゃんと保管しようという運動もあるそうですが、なかなか上手く行っていないようですね。

The Producer's Creative Partnership

PCPのホームページ。
セールスポイントの巨大タンクに相応しく特撮用プールの世界史にも触れており、世界中の撮影所のタンクが廃止されて行く中で、マルタの施設の特異性・重要性が語られています。
また、日本の東宝スタジオに存在した「大プール」に対する記述もスペック付きであり、あのプールが日本だけでなく世界映画史的にも重要な役割を担っていた事が判ります。


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【2015/01/18 00:30】 | 映画
【タグ】 レイズ・ザ・タイタニック  タイタニック  特撮  プール  タンク  坂の上の雲  
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