アナログ人間の独り言~阪神タイガース・映画・サブカルチャー・旅行等々
所謂「宮城事件」を扱った、岡本喜八監督の超大作です。
別に真冬のこの寒い時期に、真夏の暑苦しい事件を描いた映画の話など書かなくてもとは思いますが…。

太平洋戦争末期の昭和20年7月、連合国側が日本に降伏を勧告する「ポツダム宣言」を受信した日本政府と軍部は、その受諾を巡って真っ向から対立する。
陸軍を中心とした本土決戦強行派の猛反対の前に終戦への動きは遅々として進まず、遂には広島の原爆投下、ソ連の参戦、長崎の原爆投下に事は至る。
「戦争継続は不可能」との天皇の意思を受けて再度政府は討議を重ね、8月14日昼の御前会議にて天皇ははっきりとポツダム宣言の無条件受諾を内閣に指示する。
この正午から翌15日正午の玉音放送までの24時間に何が起きたのか…?

同じ題材を扱った映画では、この作品の5年前に東映の「8月15日の動乱」が公開されていますが、こちらは創作部分がかなり多く登場人物も全て名前を変えられており、玉音盤争奪戦を巡るアクション映画といった側面が大きくなっています。
一方、この「日本のいちばん長い日」は、半藤一利原作のノンフィクション(当時は、大宅壮一編名義)を基に橋本忍が脚本を担当、岡本監督がドキュメンタリー風に仕上げた堂々たる東宝創立35周年作品でありました。

御前会議での決定を受け、閣議では終戦に向けた動きが一気に加速する。
報道機関への発表、玉音放送の決定、終戦の詔書の作成…。
一方では陸軍省と近衛師団の青年将校達がクーデター計画を画策、近衛師団と東部軍の説得に奔走する。
しかし近衛の森師団長の説得に失敗した青年将校達はこれを殺害、偽の命令書によって武装した連隊を動かし皇居を占拠する。
そして翌日正午に終戦の詔書がラジオ放送されると知るや、反乱軍の指導者達は皇居内で録音された筈の玉音レコードを必死になって探し回る。如何に政府転覆を企てたとしても、先に玉音放送がされてしまうと全てが無駄になってしまうのだ。
皇居内の宮内省を徹底的に捜索しても発見出来ず、NHK東京放送局を占拠した彼らはそこから独自に放送しようとするが…。

この映画、企画から実際に製作されるまで随分大変だったようです。
当然まだご存命の事件関係者の方も多く、また題材が題材なだけに「その筋」からの圧力も結構あったとか。
一応、戦争映画に分類されている作品ですが大規模な戦闘シーンは無く、むしろ政治群像劇と言えるかも知れません。
私が始めてこの作品を観たのはまだ子供の頃であり、夏の終戦記念特別番組として「ゴールデン洋画劇場」で前後編として放送された時でした。
当時は内容も殆ど理解出来ず、オープニングの地球のシーンに何となく東宝特撮の臭いを感じて親と見ていたのですが、正直教科書にも出てこないクーデター未遂事件の歴史的な意味というものが判る筈も無く、エンディングに再び登場する地球のシーンで「取り敢えず凄い映画やなあ」という印象だけを受けたものです。
しかしその後、終戦記念日前後にはこの作品が放送される事が多くなり、このクーデター事件の重大性に気付く様になりました。
本当にこんな事件があったのか?
学校では何も教えてくれないし…。
もし、東部軍の決起が成功していたら、その後の日本はどうなっていたのだろうか?

兵卒や市井の人々を好んで描く岡本監督にとって、政治家や高級官僚・軍人しか出てこないこの映画は、撮っていて実に退屈で欲求不満が集積したとか。
しかしながら出来上がった作品を見る限りではその様な雰囲気は全く無く、2時間37分全編異常な緊張感で最後まで引っ張ります。
途切れることなく流れる仲代達矢の長いナレーションも飽きさせる事無く、モノクロ画面である為によりドキュメンタリーフィルムのような効果を上げる事に成功しています。

各人物はかなりデフォルメされて描かれているようですが、一部を除いて殆どが実名で登場します。
特に黒沢年男演じる畑中少佐は、参謀らしからぬ感情剥き出しの喜八キャラクターが炸裂しており、ある意味この映画の主役と言ってもいいでしょう。
実際の畑中少佐は非常に穏やかな士官であり、先の「ゴールデン洋画劇場」の解説に招かれていたNHKアナウンサー故館野守男氏(劇中では加山雄三が演じています)は、映画のように殺気立って拳銃を眉間に突き付けながら金切り声で怒鳴ったりはせず、紳士的に協力を求め、断ると静かに引き下がったと高島忠夫氏に語っておられました。
しかしながら劇中の畑中少佐はその初登場シーンから触れると弾けるようなキャラクターであり、怒鳴り声で挨拶する場面などは何を言っているのかも判らない始末で、ポツダム宣言受諾決定後は狂気に駆られてその異常性を遺憾無く発揮して行きます。
反乱が頓挫しても皇居を馬で疾走しながらビラを撒き(このシーン、無許可のゲリラ撮影だそうですが、今の警備警官の多さから考えるとちょっと信じられません)、最後には拳銃で頭を撃ち抜き自決します。

もう一人の暴走キャラクターは、天本英世演じる横浜警備隊隊長です。
この人も何を怒鳴っているのか聞き取り難い位のハイテンションで、あろう事か高校の後輩達を反乱軍へ勧誘します。
「皇軍に降伏の二文字無し!」と絶叫しながら軍刀を振りかざして首相官邸へ突入して行くあたりは、他の岡本作品にも随所に見られるコミカルシーンと通じるところもあり、その狂気と異常性が滑稽さを更に際立たせています。
また、官邸の警備兵に「首相は私邸にいます」と告げられると、それを鵜呑みに信じて「有難う!」と握手し立ち去る間抜けさ加減も微笑ましく、もう狂人なのかいい人なのかよく判りません(多分純粋でいい人)。
でも、ああ、恐らく岡本監督はこんなキャラクターを撮りたかったんだなと思ってしまいますよね。

椎崎中佐演じる中丸忠雄も板についた悪役モード全開で、偽の命令がばれかけて藤田進の連隊長に開き直る冷徹なふてぶてしさ等は鉄板です。
佐藤允・久保明・中谷一郎といった面々も反乱軍将校として連座しており、むさ苦しさを吹き飛ばす勢いでクーデターを決行します。

反乱者達と鎮圧者達を猛烈な疾走感で描く一方、三船敏郎山村聡、笠智衆等が演じる政府・軍首脳部の苦悩も丁寧に描かれていました。
本来敵対する存在であった総理と陸相が実は陰では深い信頼感で結ばれており、その事が終戦に多大な影響を及ぼした事実もしっかりと描かれています。

佐藤勝作曲の音楽はいつも通りの劇伴に徹しており、決して主張し過ぎる事の無い効果的な使い方がされていましたが、マーチ風のエンドタイトルは一転して印象的な出来映えとなっています。
この作品の本質を武骨さとダイナミックさであると的確に捉え、長時間に渡る鬱屈を爆発させるかのように高らかに奏で上げた後に鎮魂で締め括るその名曲は、以後様々な東宝映画の予告編(戦争映画以外にも)に流用されました。

今回、日本映画専門チャンネルで庵野秀明セレクトによる放送があり、久し振りに全編鑑賞しました(DVD持ってるのに)。
軍部の動乱を描いた岡本作品は他にSF「ブルークリスマス」があり、同作品が公開された1978年は東映の佐藤純彌監督作品「野生の証明」、松竹の山本薩夫監督作品「皇帝のいない八月」等も公開されている為、まとめて当時は「自衛隊反乱3部作」等と呼ばれたりもしました。
この辺りの作品は庵野氏だけではなく、押井守、伊藤和典、樋口真嗣、福井晴敏といった軍事オタク達にも多大な影響を与えているようです。
ブルークリスマス」は2月に放送予定(ビデオ持ってますが)。

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【2013/01/13 01:21】 | 映画
【タグ】 日本のいちばん長い日  岡本喜八  三船敏郎  佐藤勝  佐藤允  皇帝のいない八月  ブルークリスマス  山本薩夫  山村聡  
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懐かしいです・・・
イワンチョ
ほんとに8月15日前後に、よくテレビでやっていましたねー。他にもやってた一連の戦争映画を父親が片っ端から必ず見ていたので、私も毎年見てました。内容もよく分かってないまま。
その上、この年末に実家に帰ったら母親がなぜか原作を読了したばかりで、え?こんなに面白そうな話だったっけ?と借りた本が今部屋にあります^^
映画もDVD借りて、ちゃんとじっくり見たいです^^

Re: 懐かしいです・・・
aki
こんばんは、イワンチョさん。コメント、ありがとうございます。

そういえば最近は地上波での放送が無くなりましたね。
若い人が好んでDVDを借りて行くような作品とも思えませんし、出来れば深夜ででも放送してくれたらと思うのですが…。

昔、岡本監督の「ああ爆弾」のビデオを家に持って来てくれましたね。
あれは岡本ミュージカルコメディの傑作でした。
私は残念ながら岡本作品をリアルで体験出来た世代ではなく、劇場で観れたのは晩年の数本だけです。
観ていない作品も多く、私も今後ビデオやテレビで観る事になるでしょう。

ブログも時々拝見しています。
なかなか大阪までモーニングは食べに行けませんが、美味しそうな記事を見ると一度三宮辺りを探索してみたい気もします。

また、遊びに来て下さい。
お待ちしております。

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懐かしいです・・・
ほんとに8月15日前後に、よくテレビでやっていましたねー。他にもやってた一連の戦争映画を父親が片っ端から必ず見ていたので、私も毎年見てました。内容もよく分かってないまま。
その上、この年末に実家に帰ったら母親がなぜか原作を読了したばかりで、え?こんなに面白そうな話だったっけ?と借りた本が今部屋にあります^^
映画もDVD借りて、ちゃんとじっくり見たいです^^
2013/01/28(Mon) 18:23 | URL  | イワンチョ #mQop/nM.[ 編集]
Re: 懐かしいです・・・
こんばんは、イワンチョさん。コメント、ありがとうございます。

そういえば最近は地上波での放送が無くなりましたね。
若い人が好んでDVDを借りて行くような作品とも思えませんし、出来れば深夜ででも放送してくれたらと思うのですが…。

昔、岡本監督の「ああ爆弾」のビデオを家に持って来てくれましたね。
あれは岡本ミュージカルコメディの傑作でした。
私は残念ながら岡本作品をリアルで体験出来た世代ではなく、劇場で観れたのは晩年の数本だけです。
観ていない作品も多く、私も今後ビデオやテレビで観る事になるでしょう。

ブログも時々拝見しています。
なかなか大阪までモーニングは食べに行けませんが、美味しそうな記事を見ると一度三宮辺りを探索してみたい気もします。

また、遊びに来て下さい。
お待ちしております。
2013/01/28(Mon) 21:54 | URL  | aki #TMInTtVg[ 編集]
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