アナログ人間の独り言~阪神タイガース・映画・サブカルチャー・旅行等々
つい最近、日本映画専門チャンネルのインタビュー番組でその元気そうな姿を見ていただけに、本当に驚きました。

一般に小林桂樹と言えば、東宝の「社長シリーズ」に代表される実直なサラリーマンのイメージが非常に強く、それは後年の伊丹十三監督の「マルサの女」でも同様の役柄を見せており、様々な映画の中で日本人の真面目さと良心を演じ続けた方でした。

「日本のいちばん長い日」や「八甲田山」「連合艦隊」のような重厚な作品や配役であっても、その庶民的なキャラクターを演じ続け、「激動の昭和史 軍閥」で演じる事になったあの東條英機でさえも、歴史の流れの中で押し流されていく人物として演じ切っていました。

しかし私が小林桂樹の演技を強烈に脳裏に焼き付けたのは、小学校6年生の時に劇場で観た「日本沈没」の田所博士役が最初でした。

小笠原諸島の北にある無人島が、一夜で海中に没する。
政府の調査隊に参加した地球物理学者の田所博士は、かねてから日本近海での様々な異変に注目、その直感は常にある将来の危機を指し示していた…。

日本ではまだ本格的なSF映画が無い時代で、それに類するものと言えば「ゴジラ」「ガメラ」等の怪獣映画くらいしか無い有様でした。
逆に言うと、海外でも「2001年宇宙の旅」が4年前に制作されたばかりであり、まだまだSF映画=子供映画の図式が映画会社側にも観客側にもあり、そのステータスは決して高いものでは無かったと言えるでしょう。

日本沈没」の成功は、小松左京による原作の素晴らしさは勿論、その大人向けのSFという本質を理解して映像化した田中友幸プロデューサーと森谷司郎監督、そして脚本の橋本忍といったスタッフ達の努力の賜物であり、かつての怪獣映画のように大人達が真剣に創った幻想映画だったとも言えます。

それまでのSF映画に登場する、いわゆる「博士」や「教授」は、一体何の専門家か判らなくらいの万能科学者であり、無敵の超兵器や怪物を生み出してしまうスーパーヒーロー、あるいはマッドサイエンティストでした。
そんな中で小林氏はこの田所博士役のオファーがあった時、どんな思いでこの役を受けたのでしょうか?
多分、原作を読んでその役柄に惹かれたのでしょうが、ちょっと前の東宝特撮なら科学者と言えば平田昭彦か志村喬のイメージがあり、もしこのキャスティングを間違っていればいい意味でも悪い意味でもこの作品をぶち壊す事になっていたと思われます。

小林氏が「日本沈没」で演じた田所博士はまさにはまり役で、原作のイメージそのまま…いや、原作を超えて田所博士のキャラクターを決定付けたと言ってもいいかも知れません。
その狂気に付かれた様な演技は、丹波哲郎演ずる総理大臣と共にこの映画の他の出演者を圧倒し、ある意味映画の一番の見せ場である大災害特撮をも打ち負かしたと言っても過言では無いでしょう。

その鬼気迫る演技、田所博士の非常識以上と思われる振る舞いも、ラストシーンの演技でその全てが解明されます。
「わしは日本が好きだった…」
原作にもあるシーンですが、日本人なら誰でも共鳴する名演技でしょう。
新作「日本沈没」が決して到達出来ない境地がここにあります。

小林氏が「日本沈没」について語った事はあまり知りません。
出来ればどのような思いで田所博士役を演じたのか知りたかったのですが…。
ご冥福を祈ります。
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【2010/09/18 21:37】 | 映画
【タグ】 小林桂樹  日本沈没  東宝特撮  田中友幸  小松左京  田所博士  
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